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建築について

対談:妹島和世氏×伊東勝(SHIBAURA HOUSE代表)

SHIBAURA HOUSE設立の目的がどの位達成されたのか振り返る

伊東(以下、I):
SHIBAURA HOUSEを建てた目的はふたつありました。ひとつは会社としての持続性を考えた上で、事業の新しい可能性をつくること。ふたつめに会社でありながら、公共的な空間をつくりながら、地域とのつながりを築くこと。スタートから3年が経って、それらがどの程度達成されたのかを振り返りながら、妹島さんのご意見をうかがいたいと思います。

まずひとつめに関しては、ようやく事業としての芽が出てきたように思います。たまに思うのですが、もし以前の社屋でやっていたら、あと2、3年で店じまいだったかもしれません。実際には製版業としての幅の狭さ、外部との関係も既存のお客さんとのものしかありませんでした。震災直後にはクライアントからきていた仕事がゼロになったこともあります。限られたお客さんとかつての経営資源だけでやってきた会社も、この建物を建てたことで可能性は拡がりました。

なにより大きいのは、人とのつながりが以前とは比較にならないぐらい生まれていることです。仕事上の関係もそうですし、一般の人やフリーランスのデザイナーや建築家と知り合う機会が多くなりました。それにしたがって自分自身の価値観や振る舞い方も変わってきたと感じます。事業としても会場利用(スペースレンタル)の問い合わせが増えてきています。極端な話、昔からの仕事がなくなったとしても、形を変えて存続していけるような可能性はあると思います。

ふたつめの目的である「地域に対して何ができるか」ということは、最初はなかなか難しかったです。オフィス街でどういうことになるのか、予測できませんでした。いま結果的には、オフィス街のサラリーマンよりもお母さんがたくさん来ています。 始めはサラリーマンをなんとか取り込めないかと考えていましたが、どこからか無理に押し付けるのはやめようと決めました。使いたい人が自然に集まってくることに、ある程度身を任せようと思うようになりました。

妹島さん(以下、S):そのうちお母さんが事業をやり出すんじゃないですか?

I: まさしく僕らも今、そういった活動を支援できる形を考えているところです。1Fのフリースペースでは、こどもが遊んでいる隣で、イスに座ったお母さんが何かの仕事の打合せをしている光景を見ます。そういったように、近所の方が自由に空間を使い倒してくれたらいいなと思っています。妹島さんも竣工した当初に、こどもたちに使ってもらいたいとおっしゃっていましたよね。つい最近も、よく遊びに来る3歳の男の子が、SHIBAURA HOUSEに住みたいと言ってくれました。小さい子にとってSHIBAURA HOUSEのような空間で過ごす時間は、ある種の原体験になると思います。普通の場所ではなく、皆がおおらかに過ごしているような場所として。

S:そういうところに来ると、こどもも何となく自分が社会の一員であることを感じるでしょうね。田舎の子だと自然に外に出て、いろいろなものを見る機会も多いでしょうけれど。都内だと危ないとかさまざまな理由で外で自由に遊ぶことが少ないですからね。

I: 僕が一番ホッとするのは、お昼の時間にさまざまな人が混在していることです。サラリーマンが打合せをしている一方で、お母さんとこどももいるし、僕ら社員もいる。皆がお互いに譲り合いながらひとつの空間で過ごしているというのは、素晴らしいことだと思います。それが都会の真ん中でできたことが良いなと思います。

S:2階でお米でも育てたらどうでしょうか?

I:実はこの前、規模は小さいですが、2階テラスでバケツ稲を育てたんです。お米の他にも近所の人が苗を持って来てくれて、小松菜やイチゴなど育てています。たまにお水をやりにも来てくれるんです。

S:設計前に伊東さんからこういったビジョンを伺った時、よくそういった決断ができたなと思っていました。それを認められた先代の社長のお父様もすごいなと思いました。

I:当初のイメージが徐々にかたちになっていく一方で、スペースをどう有効に使うか、事業として成立させていく上での緊張感はいつもあります。イベントなどを開催して、ソフト的にどんどん動かしていかないといけません。

S: これまでやってきた事業の幅を拡張していきたいということは理解できていましたが、これからの会社は地域とつながっていく必要性があるとおっしゃっていたことは、なかなか分かりにくかった。お父様がそれまでやってこられたような大きなクライアントを相手にしたビジネスとはかなり違った方向に向いていましたからね。きちんと積み上げてきたものがある中で、それとは全然違う。

I:そうですね。でも期せずして、そういったクライアントの仕事の中身も変わってきています。今までは代理店に仕事を任せていたようなクライアントが、消費者であるお母さんの意見を直接取り入れようとしていたり。お母さんたちが主体的に事業を動かしていけるような環境を僕らも用意していくと面白いかもしれません。

S:そうですね、近年はそういった傾向が出てきていますが、SHIBAURA HOUSEを構想した当初は先を行っていたと思います。よくそういったことを予測できたなと思っています。伊東さんが設立前に考えていらした構想が、予想できなかったことも含めて徐々に形になってきていますね。でもその一方で、緊張感の連続でもあると。

I:こういった事業において、これで終わりというゴールはないと思います。実際に古くからあった同業の会社も潰れてきています。