HOME > COMMUNITY >

「From 身体 To 批評」批評文 2

2015.11.15

BY 伊藤キム

新宅一平「アレ地」

野太い男のうなり声の『エリーゼのために』が流れ、オレンジのシャツとハーフパンツの新宅が現れる。頭は栗色の長髪。伸びやかでシャープな動きが展開されたと思いきや、ポケットから伸縮スティックを取り出し受話器代りに話しはじめる。いつのまにか電話の相手ではなく観客に向かい、突然「ヨーヨーマの来日コンサートのチケットを100万円で販売して…」なんて話になる。

とにかく行方が知れない、展開が読めない。「水は低いところに向かって流れる」という法則はこの男には通用しない。それは小道具の使い方に秀逸に表れる。例のスティックは杖になり、ゴルフクラブになり、風船にも剣にもなる。

長髪だと思っていたそれは実はカツラで、頭から外して片手に掲げ正面から見つめる姿は、まるで女と向き合っているようで、何ともいえない物悲しさを感じた。現実と虚構が入り混じり、次から次へと観客の思考の土台を崩していくさまはまるでチャプリンのようで、茶目っ気と切なさが同居するソロ作品だ。

新宅一平は08〜09年に私の主宰する「輝く未来」に在籍しており、当時からその独特なキャラクターと突拍子もない発想が際立っていた。その後は自身の集団で創作を続け、より磨きをかけてきたようだ。今回の作品はその成長の跡が見て取れたものだった。

かえるP「宇宙の染み」

質素なワイシャツにスラックスの男性。そこに絡むでもなく寄り添うでもなく、なんとなく戯れるブルーの衣装をまとったふたりの女性。しなやかだが硬直した身体は、床を這いずり、手首をダランと垂らしながら立ち回り、まるで意識をなくしたかのようにジッと前を凝視する。

甘さを排除し観客の意識が寄り添う余地をなくした風情には、潔さを感じる。作品冒頭に流れるビリー・ジョエルの『ピアノマン』は、音楽と酒が絡んだ実に人間臭い内容の歌だが、舞台上で行われていることは感情や熱といったものからはほど遠く、作者がそれを意識したかどうかは定かではないが、一見音楽にそぐわない。でもだからこそ、その無味乾燥さが際立ってくる。

しかしラストでそれをひっくり返す仕掛けが待っていた。男性が両腕を身体に叩き続けながら、公演そのものに対する感謝を述べ、今後の予定を説明する。ツンデレの極みだ。

全体から受ける印象は、ダンサー同士お互いが見えているような見えていないような、微妙な関係性だ。それがラストで観客との関係にも波及していったのはドキリとさせられた。

ふたつの作品を見て

今回の試みの意義にも関わることかもしれないが、それぞれの作品からは「観客との距離の取り方」みたいなものが垣間見えた。かえるPのモノトーンに対して、新宅作品にはサービス精神があった。しかしそれは観客を喜ばせるというより、むしろ裏切っていく。その意味でいずれの作品にも、観客から一定の距離を保とうとする姿勢のようなものが見えた気がする。

ところで作家からの返信があるということなので、それぞれのタイトルの由来をぜひ聞いてみたいものだ。

*本批評は、10月31日〜11月1日に開催された「From 身体 To 批評」で上演された作品に対して寄せられた文章です。

ポスト一覧に戻る

おすすめのポスト

レポート

フレンドシップ2016「踊る人形」~時間の絵をつくろう~ レポート

9月30日、SHIBAURA HOUSEフレンドシップ・プログラム2016の一環として「踊る人形/時続きを読む

BY 松本力 / 2016.10.01

レポート

「夏のオープン・ダンスワークショップ」

8月1日から7日までの1週間、Dance Port SHIBAURA(ダンスポート・シバウラ)関連プ続きを読む

BY 岩中可南子 / 2016.09.10

レポート

SHIBAURA HOUSEのサウンドスケープ

SHIBAURA HOUSEは2016年7月で、創立5周年を迎えました。 5周年関連企画として続きを読む

BY 岩中可南子 / 2016.09.01

コラム

ダンスと地域 Vol.3

SHIBAURA HOUSEを拠点に活動する、プロ/アマ混合市民参加型ダンスカンパニー「ダンスポート続きを読む

BY 井上大辅(Daisuke Inoue) / 2016.02.26

コラム

ダンスと地域 Vol.2 〜芸術家と子どもたちの事例より〜

SHIBAURA HOUSEを拠点に活動する、プロ/アマ混合市民参加型ダンスカンパニー「ダンスポート続きを読む

BY 井上大辅(Daisuke Inoue) / 2016.01.10