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ダンスと地域 Vol.2 〜芸術家と子どもたちの事例より〜

2016.01.10

BY 井上大辅(Daisuke Inoue)

SHIBAURA HOUSEを拠点に活動する、プロ/アマ混合市民参加型ダンスカンパニー「ダンスポート・シバウラ」で企画・振付を担当するダンサー井上大辅さんによる「ダンスと地域」をテーマにしたコラム、第二弾です。
>>「ダンスと地域 Vol.1」
>> ダンスポート・シバウラ特設サイト

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こんにちは、ダンサーの井上です。近年私が関わっている仕事として〔NPO法人芸術家と子どもたち〕による活動があります。その団体名の通り、アートを通してアーティストと子どもが出会う場所を創出しています。私が関わった活動にはASIASとPKTの2通りのものがあります。

①ASIAS(Artist’s Studio In A School )[エイジアス]
 プロの現代アーティストが小・中学校や保育園、幼稚園に出かけて行って、先生と協力しながらワークショップ(WS)型の授業等を実施する活動。

②PKT[パフォーマンスキッズ・トーキョー]
ダンスや演劇、音楽などの分野のプロの現代アーティストを都内の学校やホールなどへ派遣。WSを重ねながら子どもたちが主役のオリジナル舞台作品を創作し、発表公演を行う活動。

詳しくはこちら>> NPO法人芸術家と子どもたちHP

Photo: 仙道美穂子

Photo: 仙道美穂子
※学校でのWS写真はプライバシーなどの観点から一般公開はできません。こちらはゲバゲバ舞踊団在籍時の2014年PKTホール公演の模様です。ご参考までに。



私は2014年にPKTにてホール公演、2015年はASIASとPKTにて学校型のプロジェクトに関わらせてもらっています。度々言うことですが、私は「ダンスと地域」に対してのああだこうだの提言ではなく、この大きなテーマの中で実際に活動している事例を私の実体験を通して紹介することで、「ダンスと地域」という広いテーマに具体性を持たせることができたらと考えています。今回は{地域と学校}を関連付けてみて、このPKTの話をしていきたいと思います。

PKT[パフォーマンスキッズ・トーキョー]

私の幼少期を思い出してみると、劇場に行くとか学校で学芸会や芸術鑑賞会を観るというような劇体験の記憶がありません。WSのような活動は知りもしませんでした。意図されてそうされてきたのではなく、たまたまそうだったということでしょう。しかしこのたまたまは今の私にとても大きな影響を与えているような気がします。ダンスに限らず芸術文化にいつ出会うかということは、人生において小さいことではありながら非常に大きな意味を持つように思います。

私はPKTの活動で小・中学校にWSに行きます。そこで彼らにダンスについてのいくつかの質問をします。そうするとほとんどの子どもたちは舞台を見たこともなく、ましてやコンテンポラリーダンスという言葉を知っているはずもありません。もちろん教師も然りです。私のWSの仕事はまずそこから始まります。アイドルやTVなどのダンスは知っているようですが、まずは私の踊りを観てもらったりすることでダンスという表現の幅の広さを知ってもらう必要があるのです。

2015年に関わった活動事例から

学校型プロジェクトでは2通り体験しました。発表を目的としたものと、そうでない単発型のものです。単発型の方では特別支援学級や、「聞こえの学級、言葉の学級」に行くことが多かったです。今年度は、町田の方の小学校通常級5年生と発表型を、文京区の中学校特別支援学級で単発型のWSをしました。

単発型の、しかも特別支援学級のようなところでのWSになると緊張します。人によって不自由な部分も違いますし、大きな音は駄目とか、頭に衝撃を与えてはいけないとか。それでもちょっとしたことで爆発的に動き出すし、頭に衝撃受けちゃいけない子もごろんごろん転がるしぴょんぴょん飛びます。2〜3回の単発のWSでこのエネルギーを単なる発散で終わらせず、表現へと向かわせることができたらといつも感じます。その為私がこういった場所にWSに行く場合、「観ると体験」をテーマにしています。発表を目的としないWSなので、私が踊る時間(観る時間)と体験する時間を半分ずつ、もしくは観る時間の方をやや多めに構成します。

私が踊ることで子供らの感想や提案を交換し、また踊りにしてみるという作業を繰り返します。そうすると勝手に踊り出す子や念力のようなものを私に送ろうとする子など、教室の状況は少しずつ変化していきます。このようなお互いの “交換”が面白いのです。意見や感想をもらったり、私の踊りを絵にしてもらったり、逆に踊ってもらったり、お互いにいろんな媒体で表現をしあってみることで表現への興味を深めていきます。お互いに自分の身体でできること、やりたい事を探求する時間にできたらと思っています。

発表型の方では学芸会での発表作品を創作していくことが多いです。選ばれた学校のその中から1学年の子たちと全10回程度のWSを経て作品を創作していきます。学校によって学芸会の形態も様々ですが、作品を決めるにあたっては大体が演劇作品です。ダンスを選ぶことはほぼないでしょう。演劇は戯曲(土台)があるのに対してダンスは完全に0からの創作スタートです。普段そのようにしてダンスを創る私たちだって毎回苦戦するのに、ただでさえ忙しい先生がこんなことするのは相当な苦労でしょう。ですから、私のような人間が小学校に行って先生たちの出来ないことをやりにいくのです。

この作業は10回程度の限られた時間の、しかもコンテンポラリーダンス初めての先生や子どもたちとの創作作業なので非常にハードである反面、ユニークなことも多々あります。まずは先生が楽しんでいるという点。まるで何かを発散するかのようにのびのび動きます。そしてこの作業、先生との連携が非常に重要な要素となります。作品創作にあたってはコンテンポラリーダンスなんて初めて聞くというような先生方と、ああでこうでと空想上の話をしなくてはなりません。それこそ戯曲があればそれを元に創作プランを話していけるのですが、創り始めは私自身もどうなっていくか分からないので、イメージを共有するのが非常に困難です。ですから毎回、先生にも体験してもらって感想聞いたりしながら作っていくことが私にとっては大切な作業です。それから子どもはいろんな場面でいろんな表情を見せるということ。親には親の、先生には先生の、私には私にむけてその様子を変えます。この柔軟性が子どもならではの魅力であり、芸術文化(答えの提示されない得体の知れない何か)に出会う意味があるのではないかと考えています。

芸術文化に精通した教師というのがこの日本でどれほどいるのでしょうか。逆も言えます。教育という文化について意識のあるアーティストもどれほどいるのでしょうか。私は教育のプロではないですが、PKTの仕事をやらせてもらっている以上、教育とは無関係ではいれません。突き詰めていくと、これは一つの大きな問題になっていくように思います。学校という場所は他者と直接的に触れ合うということを必要とされます。とても煩わしい行為のように感じるかもしれませんが、他者との接触に柔軟に変容していく幼少期こそこの行為が必要な気がします。この行為はインターネットではできません。そしてそれはダンスやその他舞台表現も同じです。舞台とは、目前に生身の人間がいてその人間の表現を観ることでしか味わえない体験をする場所ですから。人同士が表現を通して直接的な関わりを持てる場所なのです。

Photo: 落田伸哉

Photo: 落田伸哉
※学校でのWS写真はプライバシーなどの観点から一般公開はできません。こちらはゲバゲバ舞踊団在籍時の2014年PKTホール公演の模様です。ご参考までに。

「芸術家と子どもたち」の仕事はアートと学校という関係を築いていく橋渡しとして重要な役割を担っているのでしょう。その他にも横浜では「横浜市芸術文化教育プラットホーム」などが同様の活動をしていて、その他公共ホールでも“芸術文化によるまちづくり”という観点からこのようなアウトリーチ活動を展開していたりします。

ダンスに限らない話になってしまいましたが、教育は教育、アートはアートとしてその立場を明確にしながらもお互いが越境して学校という場で出会い、教師・アーティスト・子どもが協働していける環境の創出はこれから益々必要とされるような気がしています。

 

芸術家と子どもたち:http://www.children-art.net
横浜市芸術文化教育プラットホーム:http://y-platform.org

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