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「デ・コレスポンデント」を迎えて(前編)

2016.07.06

BY 伊東 勝

6/13から一週間、ジャーナリズムのプラットフォーム「デ・コレスポンデント」の創設者ロブ・ワインベルグさん、デザイナーのヘラルド・ドュニングさんをオランダから招聘しました。東京での滞在期間中は早稲田大学(報道実務家フォーラムとの共催)、SHIBAURA HOUSEでレクチャーを開催。多くの参加者を集めることができました。

デ・コレスポンデントの存在を知ったのは、今から3年前。来日中のジャーナリスト、ヨリス・ライエンダイクさんから「自分が応援している若いジャーナリスト達が新しいジャーナリズムのプラットフォームを作ろうとしている」と教えてもらったのがきっかけです。

イラストレーションを巧みに使い、読者を引き込んでいくようなデザイン性が際立つ

ネットで調べてみると、2ヶ月前にデ・コレスポンデントはローンチしていました。クラウドファンディングを利用して1億円の資金を集めたことも話題でしたが、綿密な調査に基いて記事にするスロージャーナリズムというスタイルと、洗練されたサイトデザインが見事に融合する、その完成度に驚きました。

幸運にも翌年アムステルダムを訪れる機会があり、彼らと直接会うことができました。ロブさんをはじめ、創設メンバーは30歳前後の若い人達ばかり。編集部のある近くのテラスでビールを飲みながら、カジュアルな雰囲気で話をすることができました。その際、デ・コレスポンデントを始めた経緯、運営方法、今後の展望などを伺いました。そこで感じたのは既存のメディアに対する懐疑的な視点と、それから反転して生まれた強い社会的使命感といえるものでした。

とくに創設者のロブさんはデ・コレスポンデントを立ち上げる前、オランダの大手新聞社が発行する「nrc next」で編集長を務め、会社の方針と合わずに解雇された経歴をもっています。広告収入に依存した新聞社の経営構造や社風、また若い人達の新聞離れに対して、いままでのメディアのあり方では立ち行かないと感じていたようです。そして自分たちの手で、まったく新しいメディアをスタートさせたのです。

パブリックサービスとしてのジャーナリズム

なによりも彼らが素晴らしいのは、純粋にジャーナリズムに身を捧げている姿勢です。会えばすぐにわかると思いますが、人間的にも真っ直ぐで、話していてとても気持ちの良い人達でした。ロブさんは長く哲学を学んでいたというバックグラウンドがあり、「社会はこうあるべきだ」という明確な信念をもっています。そして社会においては健全なジャーナリズムが必要で、それは一種のパブリックサービスだと位置付けています。したがって、記事を商品として買うのではなく、パブリックサービスを支える意味で、皆でサポートして欲しい。そのように訴えます。

クリエイターの事務所のような編集部。中心メンバーも非常に若い

彼らの話を聞いて、これは日本にとっても非常に有益な参考事例になるのではないかと思いました。というのも、当時は日本のメディアを取り巻く環境は非常にナーバスな雰囲気がありました(今も変わらないかもしれませんが)。とくに震災後の報道をめぐっては、政府からの圧力や情報の隠蔽の有無が取り上げられ、メディアとしての信頼感を損なっているような感さえありました。また私達自身、メディアの仕事に多少なりとも携わっている以上、その動向に無関心ではありませんでした。

新聞社の状況について言えば、オランダと同様、購読者数が徐々に減少し、その構造自体も変化が求められていました。報道機関が果たすべき役割、さらには、そもそもジャーナリズムとは何なのかという疑問すら浮かび上がっているようでした。

そのようなターニングポイントのなかで、デ・コレスポンデントは新しい選択肢のように映りました。広告収入は一切なし。その分野に詳しい専門のジャーナリストが記事を書く。それを読みたい人がお金を支払ってサポートする。あくまでもジャーナリストと読者の信頼関係をベースにする、とてもシンプルな仕組みです。

読者のコメント欄を「コントリビューション(貢献)」と設定し、ジャーナリストとの対話を促す。写真はロブ・ワインベルグさん

私達はデ・コレスポンデントと出会ったことを契機として、海外のオンラインのジャーナリズムの動向に関する勉強会を半年間続けました。最初は社内スタッフだけでスタートしましたが、やがて、当時は大学院生だった宮本裕人さん(現・Wired編集部)、現代ビジネス編集部の佐藤慶一さん、オランダ大使館のバス・ヴァルクスさん達が加わってくれました。

リサーチとディスカッションを繰り返し、やがてひとつの問いに行き着きました。それは「デ・コレスポンデントの日本版を作ることは可能なのか?」ということです。単純な発想のように思えますが、この仮定に沿って考えることで日本のメディアを取り囲む現状を把握し、さらに、そのあるべき姿を想像することができるのではないか。私達はそのように考えました。

継続的に開催した勉強会では日本のジャーナリズムやメディアに関して、さまざまなトピックで意見交換しました。ときには新聞社に話を聞く機会もありました。新聞社の収益構造や購読者数の推移、記者クラブの存在、さらには記者のジレンマまで。そこでわかったのは、業界に属する人達が現状に対して決して無自覚なわけではないことです。問題を「嫌というほど」理解しながらも、「それに対してアクションを起こすことができない」という言い方が正確かもしれません。ジャーナリズムというよりも、企業論理が優先される。それはかつての成功体験を引きずる企業病のようにも感じました。

(後編に続く)

佐藤さんが記事にしてくれた勉強会の様子(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39736)

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