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nl/minato_LGBT「ダイアローグ・オン・カミングアウト」

2017.03.11

BY 大角奈央、元行まみ、松井秀子

LGBTを考える ~レインボーの発信~

BY 大角奈央

2017年3月11日にnl/minatoのプログラムの一環として「ダイアローグ・オン・カミングアウト」がSHIBAURA HOUSEにて開催されました。今回のイベントはnl/minatoのテーマである「LGBT」「ジェンダー」「メディア」のうち「LGBT」に関して、オランダのLGBT団体COC Netherlands の代表であるクン・ファンデイク氏を招聘し、オランダと日本を比較しつつ、現代社会におけるLGBTの人々を取り巻く問題を「カミングアウト」という切り口で考える対談をメインに据えたもの。70を超える来場者の中には静岡県や沖縄県(!)からわざわざ足を運んでくださった方もいて、イベントへの期待度が高いことがうかがえます。

LGBTの基礎知識と日本の現状

イベントはnl/minatoに参加するインターンの発表でスタート。あらかじめ3つのグループに分かれて各々のテーマでLGBTに関する調査を進めてきました。最初のチームは「性のあり方を考える上での基本情報とLGBTの基礎知識」をスライド形式で発表。LGBTがそれぞれ何の頭文字なのか、彼らはどのような個性を持つのかという基本をわかりやすく図にして説明します。ここ50年の歴史やGoogleトレンドといった広い視点からLGBTというトピックを捉えた発表で、性的マイノリティというトピックが身近ではない私にとっても、導入としてわかりやすいものでした。


LGBTについての基本的な説明をするインターンチーム1の近藤大起さん

次のチームは日本の現状について「法」や「学校・会社」をクローズアップ。結婚、住まい、仕事など、どんな場面でも私たちの生活は様々な法律で守られているという例を挙げ「ではそれらの法律はLGBTも考慮したものになっているか?」と問いかけます。渋谷区の同性パートナーシップ条例など性的マイノリティについて考慮した行政の取り組みが進むなど、状況の改善はされつつあるも、一方で限界や弊害があると指摘し、法律だけでは解決できないと主張しました。続いて学校環境に関しては、いくつかの統計を用いて発表しました。LGBTについて授業に取り入れた経験があるかという教員を対象とした調査では、なしという回答が77.5%(*1)、LGBTをネタ・冗談にしている場面を見たことがあるかには609名のうちYESが84%(*2)。性的マイノリティに関する教育がほぼなされていないどころか、周りにカミングアウトしづらい環境であることを示しました。職場においては、性的指向や性自認に関わる差別を禁止する社内規定の制定や、LGBT関連の研修セミナーなどの開催などもあるけれど、そのような取り組みは少なく、やはり“女(男)だから”“自分の職場に同性愛者がいたら嫌だ”という声はいまだなくならないと述べ、改善の兆しはあるけれど、制度はまだ整っておらずいじめやセクハラの問題があるためにカミングアウトしづらい、とまとめました。

*1 平成27年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業
教員5,979人のLGBT意識調査レポート

*2 いのちリスペクト。ホワイトキャンペーン アンケート(2013年)

カミングアウトをめぐる「私」と「社会」

続いてのプログラムは、クンさんとnl/minato_ LGBTの活動にアドバイサーとして参加して頂いている中島潤さんとの対談part1でした。
私の印象に残ったのは75%という数字。これはゲイ・レズビアンの人が職場など社会に対してカミングアウトしている割合を表しています。75%と聞くとかなりの人がカミングアウトしているように思いますが、オランダという開かれた社会を持つ国でさえ、25%の人が打ち明けられないでいるのです。75%に属する人も、カミングアウトはとても勇気のいることであるし、必ずしも周囲の人に簡単に受け入れてもらえるとは限らないので一筋縄ではいかないという話もありました。場合によって自分の性の話は個人的なものだからと隠すより、周りの人に打ち明けた方がより良い生活を送ることができます。例えば仕事をするうえでは、隠し立てしていることがないほうが周りの信頼を得られやすく、ベストパフォーマンスをすることができるし、もしカミングアウトしていなかったら、週末の出来事を同僚に尋ねられた時やパートナーの病院の付き添いで仕事を休む時には話を作らなければならないのです。そのことをクンさんは「代償を伴う」と表現しました。


社会へのカミングアウトについて話すクンさん(中央)と中島さん

あえて選んだであろう「代償」という言葉はかなり強烈でしたが、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの子どもたちに比べてLGBの子の自殺率が5倍だということ、トランスジェンダーはもっといじめの対象となり常に命の危機と隣り合わせだという現状を聞くとその言葉がチョイスされたのも頷けます。中島さんが「オランダと比べると日本はまだまだカミングアウトできない環境である」と発言すると、クンさんはオランダの状況にもまだ解決すべき問題が山積していることを教えてくれました。

また、実際にCOCとして学校を変えていこうという働きかけの事例紹介してくださいました。「最初はトップダウンで物事を進めていこうとしたが、そもそも学校長が性的マイノリティを嫌悪していたり、オランダは寛容な国だからこれ以上変えなくてもいいという考えからなかなかに難航していたが、発想を変えて子どもたちに働きかけてパープルフライデーというキャンペーン(LGBT当事者である子どもたちを主体として、周りの生徒にLGBTそのものの認識を広める運動)としてやらせると、性的マイノリティの声は次第に大きくなり、今までいじめる側だった子どもが参加するようになった」とのことです。このように、理解しろという上からの押し付けではなく、一緒に学んで意識を変えていこうという取り組みはまさにnl/minatoがやろうとしていることであり、非常に有効な手段であると感じました。

カミングアウトストーリーから見える社会

BY 元行まみ

前半ではLGBTに関する基礎的な知識やクンさんのCOCでの活動や経験を会場と共有しました。後半は、ゲストである池田えり子さんと川田篤さんに、ご自身のカミングアウトにまつわるストーリーを語っていただきました。ゲストのお2人の明るい語り口によって、会場全体の雰囲気もとても和やかになりました。参加者にも、身近な人の話を聞くようなかたちで言葉が届いたのではないかと思います。


中島潤さんを聞き手としながら、ゲストのお2人と対話が進んでいきました。ステージ上、左から中島さん、池田さん、川田さん

池田さんからは、自分のセクシュアリティに気づくまでの経緯や、友人や家族へのカミングアウトまでのプロセスや、その後の関係性の作り方を語っていただきました。
中でも「カミングアウトというのは1度きりではない」という言葉が印象的でした。相手が「理解する」瞬間というのは、1度のカミングアウトで訪れるとは限らず、何度も時間をかけて話をすることが必要な場合もあります。多様性を意識するのに大事なのは、周りへの想像力を働かせること。カミングアウトするのが当事者にとって必ずしも良いことと言えるわけでもありません。LGBTに限ったことではなく、私たちが日常で抱えている様々な問題に対しても言えることでもあるように感じました。
池田さんご自身も学生の時に悩んだり話せる大人がいなかったという経験を振り返りながら、現在は教員という立場になり、生徒との関係性のつくり方を模索されています。

また、川田さんからは、自身のセクシュアリティへの気づきから、職場でのカミングアウトまでの経緯、そして会社員として現在はどのようなことを指針として活動をされているかを語っていただきました。
ご自身がゲイであることに幼少期から気づいていながらも、しばらくは「自分もいつかは女性と結婚するだろう」と漠然と感じていたそうです。しかし時間が経つにつれて、本当の自分を隠している状況を打破すべく、職場でカミングアウトをしました。職場でのカミングアウトが、周りから受け入れられたというだけではなく、自分自身を受け入れるきっかけにもなったといいます。


心理学でも登場する「ジョハリーの窓」を例に、〈自分が知っている自分〉と〈他人が知っている自分〉が一致すると良い関係が築けると説明する川田さん(右)

企業人として活動していく中で、他の社員から見ても「こんな風に仕事ができれば良いな」と思われるようなロールモデルになるのと同時に、特別な人が特別なことをするのではなく、それぞれ自分がいる場所で何ができるかを考えられるよう、個々人に寄り添う気持ちを大切にされているそうです。

私たちは普段〈LGBT当事者〉と〈LGBT当事者でない人〉という認識をして話を進めてしまいがちですが、立場や切り口が違うお2人のお話を聞いて、人と人(「わたし」と「あなた」)とが信頼し合う基盤や関係性をどのように築くかという視点がとても重要であるように思いました。

ジェンダーアイデンティティが形成される教育と環境

BY 松井秀子
 
池田さんと川田さんにお話いただいた後は、ジェンダーアイデンティティをテーマに、私はいつからどのようなプロセスを経て、男性または女性として生きてきたのか、3人のインターンを中心に会場の方を交えてディスカッションを行いました。
子どもの考えの指標になる教育について学校教育と家庭教育の2つに分けながら、それぞれの立場、経験から気づきの場となりました。前段のインターンの発表にもありましたが日本では男性と女性の2つの性に限定され、そのどちらかに属し選ぶことを無意識のうちに求められています。学校教育の過程を経て友達同士、カラオケで選曲する歌についても男性向けなのか女性向けの歌なのかを判別し、大学祭では体育会系の学生がオカマバーを開催し無意識に当事者を傷つけることがおきています。家庭教育においても進路選択の際に本人の志向性や得意なことよりも、2つの性に当てはめてステレオタイプに決定することも多いことに気づきます。
 

インターンの今野和香子さん、横田純一さん、斉藤有吾さん と参加者とのアイスブレイク

「学ぶこと×伝えること」

次のプログラムはクンさんと中島さんの対談part2でした。日本では、電車の中の広告などで無意識のうちに性はそうあるべきものと、いつの間にか刷り込まれています。お2人のお話から、日本の今を変えるため、何から始めていけば良いのかたくさんのヒントをいただきました。
 
オランダでは、性の多様性に関して学校教育で教えることが制度化されており、加えて現場の教師がボトムアップでの対応も行っていること。ボトムアップとは、子どもたち自身が自分の性が男性と女性で100%区分されていないことに気づき、自分の性について考えていくこと、そしてその子供たちの気付きに応じて、教師が子どもたちに必要なものは何であるのかを考え、教えていくことです。これは日本でも受け入れやすい考え方だと思いました。オランダの状況は多様な性があることを啓蒙する段階は終わっており、メインストリームのメディアがテレビ番組としてLGBTについて、バランス良く取り上げていることは羨ましい限りです。メディアがLGBTについてどのような取り扱いを行うかについて、nl/minatoでも10月からフォーカスしていきますが、中島さんから日本のメディアの取り上げ方として「笑いの対象・いわゆる『オネエ系』」、一方では「頑張っているLGBTの姿」という極端な取り上げられ方になっているというお話がありました。私も過度に読み手の感情を刺激しないと受けいれられないと考えているメディアの表現方法には疑問をもっています。メディアでバランス良く取り上げられる状況をつくるためにも、まずは正しい情報提供をすること、そして次に「学ぶ・知る」から「知りあう場をつくる」というステップが必要だと感じます。当事者である人と当事者ではない人との知り合う場として今日のようなnl/minatoの場は有意義であり、クンさんからの、「変えていこうというエネルギーで行動を起こしていくことにより、ゆっくりではあるけれども変化をもたらすことができる」、また「この場からそれぞれの地域に持ち帰り、発信して次につなげることで日本も絶対に変わることができる」というお話は筆者のみならず、会場にいらっしゃる皆さんがたくさんの勇気をいただいたのではないでしょうか。


オランダの事例から今できることを話し合うクンさんと中島さん
 
今日のプログラムの締めくくりとして、登壇者のクンさんと、同じく今回クンさんと共にオランダから招聘して日本に滞在したCOC Netherlandsの国際プログラムマネージャーであるブラム・ランゲンさんと中島さんに池田さん、川田さんが加わり、今日のお話で感じたことを会場のみなさんと話し合いの場をもちました。
その中で池田さんから「どうしたら日本を変えられるかを考えたとき、相手を思いやる気持ちが大切です。そのためには教育が重要な役割なので、教育指導要領の10年に1度の改訂に合わせ、性の多様性に配慮した指導内容にするためのパブリックコメントへ参加してほしい」という呼びかけ、また川田さんからは「日本は変わってきているからこれからも変えられるのだ」という力強い言葉と共に「レインボーブリッジが見えるこの場所で新たな発信をしていきましょう」という第1回を締めくくるメッセージをいただきました。会場からは、学校における子どもがカミングアウトしやすい環境づくりに必要なこと、カミングアウトをされた側のその後に起きうる課題、中島さんからは日本では、「カミングアウトされた人」が情報を得たり相談したりできる場所が少なく、そのような場所をつくっていく必要もあるのでは、と提言がありました。話が尽きないまま懇親会にすすみ、イベントは終了となりました。
今を変えるために自分が居る場でできること、発信できることのヒントをいただいたイベントでした。自分と自分を取り巻く未来を自分で創る、出会いを楽しみながらnl/minatoに集うみなさんと進めていきたいと思います。

登壇者:左から川田さん、池田さん、クンさん、ブラムさん、中島さん

 

〈LGBTをめぐる言葉のあれこれ〉
2015年頃から、英語圏では性別のない新しい人称代名詞として、HeやSheではなく「Ze」と呼ぶ習慣や「希望する人称代名詞を聞く」という新たなマナーも広まってきているようです。
また近年では、LGBT(性的マイノリティ)とそうでない人といった二項対立を避け、すべての人の性のあり方を考える概念として、SOGI(エスオージーアイ/ソギ/ソジ)という概念を使用する動きも出てきました。
SOはセクシュアルオリエンテーション(性的指向)の略で、自認するジェンダーとは異なるジェンダーに性愛を感じることをヘテロセクシュアル、同じジェンダーに性愛を感じることをホモセクシュアル、両方に対して性愛を感じることをバイセクシュアル、いずれにも性愛を感じない場合をアセクシュアルと呼んでいます。
また、GIはジェンダーアイデンティティ(性自認)の略で、自分の身体的性差(セックス)に対応する社会的性差(ジェンダー)に違和感のない状態をシスジェンダーといい、違和感を感じ、違うジェンダーに適応したい状態をトランスジェンダーと呼んでいます。

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