HOME > COMMUNITY >

nl/minato_ジェンダー「Personal is Political -私の生き方、社会の在り方-」

2017.07.29

BY 元行まみ

2017年7月29日(土)にnl/minatoのプログラムとしてジェンダーをテーマとしたイベント「Personal is Political −私の生き方、社会の在り方−」を開催しました。

私自身、今まで「男らしさ」「女らしさ」といった表象の問題としてジェンダーや性のあり方を意識することはあっても、実際の困難や生き辛さが経済や政治的な問題とどのように結びついているのかを知る機会が、あまりありませんでした。そのためにモヤモヤとした違和感だけが宙に浮いているような気がしていました。今回のイベントでは、タイトルに''Personal is Political''という言葉を入れていますが、身近な生き辛さや個人的な経験をもとにしながらも、その背景にある社会に想いを馳せ、学びを深めたいという思いがありました。企画監修・ファシリテーターとして須川咲子さん、ゲストとして堅田香緒里さん、オランダからはサビーネ・ジンブレールさんを招聘し、多角的な視点でジェンダーを考える機会となったように思います。

私たちの背後にある、見えざるジェンダー・ギャップ

プログラムの最初に、nl/minatoのインターンによる事前リサーチをハンドアウトをもとに会場の皆さんと共有しました。ジェンダーを考えるにあたって頻出する基本的な用語を整理するとともに、自身がかけられた言葉や見聞きしたことのある経験を例に挙げながら、ジェンダーに固定化された役割や表象の問題を挙げていきました。

発表に参加したインターンの近藤大起さんは、職場での統計を主にリサーチした結果から、入社の段階で決められるコース別人事(総合職や一般職など)での差が、その後のキャリア形成や賃金の差に大きく影響していることや、産休・育休の取得状況が職場の環境や理解に左右されると指摘しました。さらに統計をみていくと、非正規雇用者の中でも約7割が女性であるということ、世帯種類別貧困率は母子世帯は約60%、単身女性約45%と非常に高いことが分かります。現代における女性の立場が、男性に比べ経済的に厳しい状況にあることを数字を改めて見ることで、その深刻さがより浮き彫りになりました。

ハンドアウトをもとに、職場環境についてのリサーチを発表するインターンの近藤大起さん

発表を踏まえて、ジェンダーにおける問題が経済的・政治的な条件と繋がっているのではないかということに意識を向けながら、参加者にも日頃感じている違和感や不条理をポストイットに書いてもらいました。


表象の問題・労働問題・社会福祉の問題・ハラスメント・DVなどをキーワードにしながらグループ分けしました。

ジェンダーにおける日本の社会的背景を紐解く

私たちの違和感のもととなる性差に固定された考え方がどのように形成されてきたのか、ジェンダーにおける日本の社会的背景を探るべく、堅田さんにお話しいただきました。堅田さんご自身も、自分の状況や経験を振り返りながら、自分の苦しさが資本主義やフェミニズムに関わる問題に起因しているのではないかと考えるようになったのが研究を始めたきっかけだったといいます。

レクチャーの中で特に意識させられたのは、経済成長と社会福祉の関係です。資本主義をあらゆるものを商品に変える運動として捉えてみると、賃金を得るために労働力を商品化するという考え方ができます。この労働力商品は単独では存在できず、摩耗する労働力を再び再生産させる必要があります。こうした考えのもと可視化されたのが、衣食住に関する労働、つまり家事労働や育児を指す「再生産労働」という考え方だということがお話の中で分かってきました。


違和感の背景にある経済や福祉の仕組みを一つ一つ解説していく堅田香緒里さん

堅田さんは、日本型の経済成長が長時間労働を美徳とする雇用システムと、''男性が外で働いて、女性が家事/育児(再生産)をする''といった性別役割分業に基づいた「標準家族」モデルに支えられてきたことを指摘します。社会保障制度上でも家族は含み資産と考えられており、特に家庭内の女性が性別役割に基づいて、無報酬の再生産労働を一手に担うことによって、扶養家族として福祉の受給権が発生するという構造が見えてきます。この話を聞きながら私は、結婚や出産をきっかけに女性が仕事を辞めて主婦パートになる現象を思い浮かべました。それぞれに多様な生き方があっていいはずなのに、制度によって特定の生き方や働き方をするように促されているように感じてしまいます。また賃労働における問題を切り取ってみても、賃金・雇用状態の格差やハラスメントなど、構造そのものからくる不平等が浮き彫りになってきました。

制度においても人々の意識においても、生きづらさや貧困は自己責任だという風潮がありますが、経済成長と福祉がトレードオフとなっている社会の構造が、違和感や苦しさの根元にある気がします。1985年に男女雇用機会均等法が施行されたものの、同時に派遣法と年金第三号(扶養制度)が施行され、近年ではキャリアを積んでいく豊かな女性と、派遣法によって貧困に陥る女性の分断も起こっています。

「再生産労働」という考え方と、ラディカルな女性運動

私たちが置かれている環境や社会制度の仕組みについて整理した後に、須川さんとともに「再生産労働」に対する考え方を深めていきました。須川さんは芸術・文化事業に携わってきた背景をベースに、家事労働者の労働運動の支援、再生産労働の価値を根本的に捉え直すための仕組み作りを柱に、リサーチを続けています。

須川さんは、ジェンダーに関わる問題には必ず政治・経済的な不平等があり、個人の意識の変革に留まらず、コレクティブにかつ具体的に解決していく必要があるといいます。その解決の糸口として、再生産労働を切り口として過去の運動の歴史を紹介しました。「マテリアルフェミニスト」と呼ばれる人たちは、共同住宅やインフラをはじめとする建築や都市のデザインを、家事労働を担う女性の目線で考える実験的な試みを行いました。コミュニティを基盤とするユニークなデザインは、当時の女性たちがよりよく生きようとする希望や夢が詰まっているように見えます。また、「Wages for housework movement」という運動では、家事労働に賃金を主張することによって、資本主義経済がどのように、家事労働にただ乗りしているのかというメカニズムを明らかにしました。いずれも、女性解放運動が経済の仕組みそのものを問い直すものでしたが、それゆえに主流にはなりえなかったそうです。フェミニズムにおいても、資本主義経済との親和性が、主流となる流れを決定づけてきたことを知りました。
 


ジェンダーに関する活動に行き着く前も、どうしたらみんなが働きやすい環境を整えられるかということをよく考えていたという須川咲子さん

さらに須川さんは自らの研究の中で、先進国の家事労働従事者のほとんどが、発展途上国出身で、滞在許可を持てずに、低賃金で働かされていると言います。彼らが自分の国を出て経済的に豊かな国に出向いて働かざるを得ない境遇の背景には、植民地時代から資本主義経済の今に至るまで、先進国から発展途上国へ、男性から女性へ、そして先進諸国の女性から発展途上国の女性への搾取が繰り返されている構造的な問題があります。現在は、先進諸国の女性たちが中心となって議論してきたフェミニズムではないフェミニズムを学ぶとともに、命や生活、環境を維持する再生産労働から、経済や生産活動を動かす方法がないか模索していると締めくくりました。

不法移民について流れるニュースも、遠い国で起こっている出来事として認識していた私は、この社会で生きている限り自分もそうした構造に加担する一人だということに気づき、ショックを受けるととももどかしさを感じました。「私は困っている人が多くいる社会で生きるより、自分の周りにいる人誰もが元気に朗らかに生きていける社会を目指していきたいと思っています。『自分は経験していないから』という言葉で閉ざすのではなくて、他者の苦しみに目を向けて想いを馳せるということを大事にしていきたい」という須川さんの素直な言葉が非常に印象に残っています。こうした思いが彼女の原動力であり、私も含め参加者も共感するところだったのではないかと思います。

オランダの取り組み、ジェンダーへの眼差し

オランダのアムステルダム市で文化プログラムを担当しているジンブレールさんからは、オランダでの政策や地方公共団体との関係性が、ジェンダーにおける課題にどのような影響を与えているのかということをテーマにお話いただきました。ジンブレールさん自身はジェンダーの分野おける専門家ではないものの、過去30年間アムステルダム市で働いてきた経験から学ぶ機会が多くあったといいます。そして現在、オランダでは女性の社会進出が当たり前になったものの、近年の課題として仕事と家庭内のワークバランスの乱れや介護の責務への負担差が広がっていることを挙げられていました。

ジンブレールさんは、オランダではシングルや同性婚の家庭も多くあり、ロールモデルは存在せずさまざまな家族の形態があることを共有してくれました

アムステルダム市の政策は、個人やコミュニティ同士で連携を図るよう仕組みを構築しているところが特徴的です。女性が経済的に自立することへ着目した政策では、就業や起業への支援だけではなく、家庭以外にも社会的・経済的なセーフティネットをつくること、そして企業やNGO、地方公共団体に支援をすることで、地域の課題をより身近に具体的に解決することを目指しています。地方団体との相互関係は、見えなかった課題を浮き彫りにしたり、実際に施策に落とし込む際に重要な役割を担っているそうです。またマイノリティコミュニティの中には女性が結婚や仕事について自己選択できない状況があり、彼らに対する積極的な情報提供やロールモデルを作るなど、孤立しないためのネットワークづくりに注力している印象を受けました。
ジンブレールさんは、ジェンダーにおける方法論や課題を他国とも共有しながら、連携を積み重ねていくことが今後の目標だと述べていました。

多様性を育むための実験と実践

日本の現状に立ち返ってみた時、近年の女性活躍推進政策は、成長戦略のために女性労働力の「活用」を積極的に進めながら、他方で、「女性手帳*」「3年間抱っこし放題*」に見られるように、妊娠・出産・子育てに関わる多くの問題を女性が担い、多様な生き方を否定するような形で進められている、と堅田さんは言います。また性別役割分業への取り組みは皆無であり、社会保障抑制とセットである従来の枠組みが変わっていないことから、女性活用の政策は、あくまでも成長戦略の一つであって、女性の身体の「植民地化」なのではないかと問いかけました。
この現状を打開するための提案として、個々の声をどのような形で社会に反映していけばいいのか、堅田さんからいくつかヒントをもらいました。


資本主義的秩序を考え直すヒントとして、「魔女になろう!」と提案する堅田さん


印象に残っているのは、「魔女になろう!」という言葉。須川さんのお話にもでてきた「Wages for housework movement」を例にあげ、家事労働の賃金を要求すると同時に、生産労働・再生産労働の両方を拒否する戦略をとっていたことに注目しました。彼女たちは、性労働が家事労働の中心であることを示し、愛の名の下に家事労働の無償性を受け入れるか・受け入れないか(= 不払い労働を拒否する売春婦、または同性愛の女性)で、女性が分断されてきたことを明示化しました。家事労働の拒否を通して女性の身体を植民地化しようとする権力から自由になるために、魔女になろう。再生産労働における議論は一見極論に見えますが、今まで当たり前に根付いてきた思想を可視化し、私たち自身がその本質を見極めて選び直す可能性を示唆しているように思います。最後に堅田さんは、全ての人がその生活に必要な所得を無条件で受け取れる「ベーシックインカム」を紹介し、自分の欲望を見つめ直すことも重要なのではないかと参加者に問いかけました。

*3年間抱っこし放題:法定育児休業を最長1年半から3年まで延長する法案。その間のキャリア保証や生活保証はされていない。

*女性手帳:妊娠適齢期など、主に女性の体について必要知識や自治体の支援施策を記した手帳。いずれも、女性たちの激しい抵抗にあい、今のところ頓挫。

個人・コミュニティとしてできること

これまでの話を踏まえて、イベントの最初に参加者と挙げたポストイットをもとに、社会全体として今の私たちに必要な改革とは何か、グループに分かれてディスカッションをしました。
育休や就職、職場環境、独身と子持ち女性の分断、チャイルドケアや介護、社会保障の話など、さまざまなトピックに分かれて議論を行いました。ひとり親が子育てをしやすい環境を考えるうえで、ベーシックインカムを採用してワークライフバランスを考える余裕や選択肢が増やすといった意見や、子どもに対する保障を充実させるべく税金のかけ方を食費や娯楽などの種別によって変えたらどうかという意見もでていました。


ディスカッションで出てきた意見を参加者同士で発表し合いました

複雑に絡み合う問題を一気に解くような明快な答えはありません。しかし、我慢したり耐えるのではなく、各々が''こうしたい''と思うアイディアを言葉にしていく・話し合う環境があれば、お互いが元気に生きられる社会になるのではないか、とイベントを通して思いました。

ポスト一覧に戻る

おすすめのポスト

レポート

nl/minato_メディア「ジャーナリズムが語るもの、引き出すもの」

2018年11月25日(土)にnl/minatoのメディアプログラムとして、オランダから女性5人組の続きを読む

BY 横田純一 / 2017.11.29

レポート

nl/minato_LGBT「ダイアローグ・オン・カミングアウト」

BY 大角奈央 2017年3月11日にnl/minatoのプログラムの一環として「ダイアローグ続きを読む

BY 大角奈央、元行まみ、松井秀子 / 2017.03.11

レポート

nl/minato_LGBT 「ゲストと語る夕食会 -クン・ファンデイク氏を囲んで- 」イベントレポート

COC Netherlands代表のクン・ファンデイクさん(右)と国際プログラムマネージャーのブ続きを読む

BY 木村文香 / 2017.03.10

レポート

フレンドシップ2016「踊る人形」~時間の絵をつくろう~ レポート

9月30日、SHIBAURA HOUSEフレンドシップ・プログラム2016の一環として「踊る人形/時続きを読む

BY 松本力 / 2016.10.01

レポート

「夏のオープン・ダンスワークショップ」

8月1日から7日までの1週間、Dance Port SHIBAURA(ダンスポート・シバウラ)関連プ続きを読む

BY 岩中可南子 / 2016.09.10